あなたは繊維の品質表示の重要性と評価方法をご存じでしょうか。
衣類の裏側についている品質表示は、一般消費者を保護する目的を持ち、家庭用品品質表示法によって義務付けられています。
また、品質表示は量産品に限らず、1点ものなどのハンドメイド作品においても、不特定多数の一般消費者に対して販売する場合は表示対象になることは意外と知られていません。
そこでこの記事では、身近な存在でありながら意外と知られていない、繊維の品質表示の重要性や評価方法などについて詳しく解説していきます。
品質表示には多くの情報が詰まっている
品質表示は、「商品がどのような素材で作られていて、取り扱いの際にどのような注意が必要か」ということを示すものです。
そんな品質表示には多くの情報が詰まっており、衣類を扱う上で大切な以下の要素を含んでいます。
- 素材の情報
- 洗濯・お手入れの情報
- 販売業者・輸入業者の情報
素材の情報
商品に使用されている素材の種類や含有率が記載されており、例として綿やポリエステル、ウールなどが挙げられます。
その他、動物から取れるメリノウールやアルパカ、アンゴラや麻などの天然繊維は高級であることが多いため、実際の値段を確認する前に品質表示をチェックしてみるといいでしょう。
洗濯やお手入れの情報
あなたは品質表示に記載されている情報をよく見ずに洗濯してしまい、衣類にダメージを与えてしまった経験はありませんか。
品質表示には洗濯やお手入れの情報も記載されています。
お気に入りの衣類を長持ちさせるためにも、適切な洗濯方法やお手入れをしましょう。
販売業者・輸入業者の情報
品質表示では、販売業者や輸入業者の情報もわかります。
記載されている情報は「住所または電話番号」と法律で定められているため、住所または電話番号のみ、もしくは住所と電話番号の両方を記載していたりと業者によって異なる場合があります。
商品に対する問い合わせ先などの詳細な情報を得たい場合は、販売業者や輸入業者のウェブサイトから確認するとよいでしょう。
品質表示は消費者に正しい情報を提供し、適切に製品を扱えるようサポートする役割を持っています。
今まで品質表示内容を気にせず洗濯を気にしていなかった人は、今一度見てみると品質表示に多くの情報が詰まっていることを再認識できるはずです。
品質表示タグは義務
品質表示タグを付けることは「家庭用品品質表示法」という法律で定められた義務です。
「家庭用品品質表示法」とは、消費者が日常使用する家庭用品を対象に、商品の品質について事業者が表示すべき事項や表示方法を定めており、これにより消費者が商品の購入をする際に適切な情報を受けることができるように制定された法律です。
日常使用する家庭用品には、私たちが普段着ている衣類などの繊維製品も含まれるので、販売する際には品質表示タグを必ずつけなければなりません。
繊維製品一覧は、消費者庁のホームページで確認可能です。
品質表示をつける前に、まずはどの繊維製品に該当するか確認をしましょう。
家庭用品品質表示法で義務付けられている品質表示ですが、もしも記載がなかったり、タグを付けない状態で販売した場合はどうなるのでしょうか。
結論から言うと、法律違反となり20万円以下の罰金に処されてしまいます。
また、家庭用品品質表示法に違反しているかどうかは、消費者庁の違反相談窓口への通報に基づいて行政指導が入ることがあり、行政指導後にも改善が見られない場合は販売措置が取られる恐れがあります。
品質表示無しで販売することで法律違反となることはもちろんですが、顧客からの信頼も失ってしまうことになりますので、適切な品質表示を行うようにしましょう。
品質表示タグの内容
ここまでで、品質表示には多くの情報が詰まっていること、品質表示の重要性について紹介しました。
では、品質表示タグを付ける場合、どのような内容を表示しなければいけないのでしょうか。
この章では、品質表示タグで義務付けられている内容と任意表示の内容を解説します。
法律違反にならないように、必ず表示しなければいけない内容をおさえておきましょう。
義務表示の内容
まずは品質表示の義務表示の内容を紹介します。
品質表示で義務付けられている内容は以下の3点です。
- 繊維の組成
- 洗濯絵表示
- 表示者名と連絡先
この3つの内容は必ず必要なので、漏れの無いようにしましょう。
繊維の組成
商品に使用している繊維の種類と含有率を表示します。
また繊維名については、「指定用語」と呼ばれる規程で定められた用語を使用した表示が必要です。
指定用語を表示する際は、含有率の大きい種類から順に繊維名称を並べます。
【表示例】
出典元:消費者庁 繊維製品の表示について
洗濯絵表示
洗濯絵表示は、消費者に適切な洗濯やお手入れ方法を提供するために重要な情報です。
絵表示の組み合わせ順序は、分類番号順に左から右に並べて表示するよう決められています。
【分類番号】
- 洗濯処理記号
- 漂白処理記号
- 乾燥処理記号
- タンブル乾燥処理記号
- 自然乾燥処理記号
- アイロン仕上げ処理記号
- 商業クリーニング処理記号
- ドライクリーニング処理記号
- ウエットクリーニング処理記号
2016年12月に改正された新JIS規格では、洗濯、漂白、タンブル乾燥、自然乾燥、アイロン仕上げ、ドライクリーニング、ウエットクリーニングの7つすべてを表示することを基本としています。
しかし、5つの基本記号のいずれかが表示されていない場合は、省略された記号の処理がすべて可能と解釈されることを覚えておきましょう。
なお、記号を並べる順番は①洗濯⇒②漂白⇒③タンブル乾燥⇒④自然乾燥⇒⑤アイロン仕上げ⇒⑥ドライクリーニング⇒⑦ウエットクリーニングの順に並べます。
【表示例】
出典元:消費者庁 繊維製品の表示について
洗濯表示記号については消費者庁のホームページでも紹介されていますので、ぜひ参考にしてください。
表示者名と連絡先
品質表示には、表示者の「氏名又記は名称」及び「住所又は電話番号」の表記が必要です。
表示者とは、販売する製品の製造や加工、品質表示の責任を有する者を指し、個人の場合は氏名を記載しなければならず俗称やニックネームは認められません。
ただし、個人事業主登録済みの場合は屋号の使用が可能です。
法人の場合は、原則として社名または団体名の法人登録された名称を表記します。
連絡先は「住所又は電話番号」の表示が必要で、住所は都道府県名から建物名の部屋番号までのすべての情報が必要です。
電話番号の場合は、市外局番から記載しましょう。
電話番号はフリーダイヤルも認められています。
ただし、FAXやPHS、携帯電話番号は認められていないので注意が必要です。
なお、「住所又は電話番号」の表記が必要とありますが、住所と電話番号の両方を記載しても問題ありません。
【表記例】
- 縫い付けラベルのみで品質表示が行われている場合
出典元:消費者庁 繊維製品の表示について
【表記例】
- 縫い付けラベルと下げ札で品質表示が分かれている場合
出典元:消費者庁 繊維製品の表示について
原則、品質表示には表示者名と連絡先を近くに表記しなければなりません。
もし品質表示の内容(繊維の組成や洗濯絵表示など)を分ける場合は、それぞれに表示者名等を表記する必要があります。
任意表示の内容
品質表示の義務表示の内容を紹介しましたが、次に任意表示の内容を紹介します。
- 生産国
- 品番・サイズ
- 取扱注意文
任意表示の内容とはいえ、状況に応じて対応できるように理解しておきましょう。
生産国
生産国(原産国)の表示は家庭用品品質表示法では義務付けられてはいませんが、商品の生産国(原産国)については、景品表示法(不当景品類及び不当表示防止法[昭和37年法律第134号])上、「商品の原産国に関する不当な表示」(昭和48年公正取引委員会告示第34号)において一定の基準があります。
消費者庁では商品の生産国(原産国)について、原則以下のような表示を不当表示としています。
ア 国内で生産された商品についての次に掲げる表示であって、その商品が国内で生産されたことを一般消費者が判別することが困難であると認められるもの
(1)外国の国名、地名、国旗、紋章その他これらに類するものの表示
(2)外国の事業者又はデザイナーの氏名、名称又は商標の表示
(3)文字による表示の全部又は主要部分が外国の文字で示されている表示
イ 外国で生産された商品についての次に掲げる表示であって、その商品がその原産国で生産されたものであることを一般消費者が判別することが困難であると認められるもの
(1)その商品の原産国以外の国名、地名、国旗、紋章その他これらに類するものの表示
(2)その商品の原産国以外の国の事業者又はデザイナーの氏名、名称又は商標の表示
(3)文字による表示の全部又は主要部分が和文で示されている表示
なお、上記の「商品の原産国に関する不当な表示」が指している「原産国」は、商品の材料の産出国ではなく、「実質的な変更をもたらす行為」が行われた国を指します。
例えば商品の素材が日本製であっても、縫製など最終的な加工が行われた国がベトナムであれば、「ベトナム製」の商品として表記が必要です。
品番・サイズ
品番やサイズを表示することにより、商品管理や売り上げの分析がしやすくなります。
また消費者やクリーニング店にとっても品番やサイズは、商品の問い合わせ時に役立つ情報です。
取扱注意文
「付記用語」や「アテンション」とも呼ばれている取扱注意文も任意表示内容ですが、洗濯絵表示だけでは伝えきれない情報もあるため、取扱注意文表示は情報伝達の有効な手段です。
また、消費者やクリーニング店での洗濯トラブルを避け、安心して取り扱ってもらうためにも取扱注意文を表示することをおすすめします。
品質表示の義務の内容や任意の内容について理解していただけたでしょうか。
品質表示は直接製品に記載する、または縫い付けラベルなどに記載します。
縫い付けラベルの場合、消費者が簡単に分かる箇所に容易に取れない方法で繊維製品に取り付けなければなりません。
アイテムによって異なりますが、品質表示の付け位置や取付け方法も考慮しましょう。
品質表示に関する試験の例
品質表示に関する試験はどのようなものがあるのでしょうか。
この章では品質表示内容を決めるために行う試験の例を紹介します。
- 繊維の組成の評価方法
- 適切な洗濯方法の評価方法
試験方法を理解することで、品質表示についての理解を深めるきっかけにしてください。
繊維の組成を評価
繊維の組成を評価する方法として、「繊維鑑別試験(JISL1030-1)」の試験を解説します。
繊維鑑別試験は、繊維の種類を調べる試験のことです。
- 燃焼試験
- 顕微鏡試験
- 溶解試験
- 赤外吸収スペクトルの測定
繊維鑑別試験の手法として、上記4つの試験方法から組み合わせて繊維の種類を調べます。
燃焼試験
文字どおり、繊維を燃焼させて行う試験です。
炎に近づけたときの状態や炎の中に入れたときの状態、炎から離れたときの状態、燃焼後の臭いを観察します。
東京都立産業技術研究センターのホームページでは、詳しい燃焼試験の様子が紹介されていますので、以下のリンクを参考にしてください。
顕微鏡試験
顕微鏡を使用して、繊維の側面や断面を観察する試験方法です。
繊維によって、まっすぐなものやねじれたもの、うろこ状のものがありそれぞれの特徴から繊維の種類を判定します。
出典元:一般財団法人 カケンテストセンター 繊維鑑別試験 顕微鏡試験
溶解試験
溶解試験は、濃硝酸、70%硫酸、20%塩酸などの試薬を用いて、さまざまな薬品と繊維の種類の組み合わせによる 「溶解性の差」を利用する試験です。
赤外吸収スペクトルの測定
赤外スペクトルの測定は、繊維の分子構造を調べるものです。
赤外分光光度計を使用し、スペクトルの吸収帯と特定波数を測定します。
適切な洗濯方法を評価
その他、適切な洗濯方法を評価するための試験方法をJIS規格から2つ紹介します。
家庭洗濯機法(JIS L 1930)
一般的に最も多く用いられている試験方法で、家庭洗濯と同様の方法で実施します。
水分と洗濯機の機械力による寸法変化特性を評価するために行う、水洗い可能な素材に適用した試験方法です。
洗濯機の種類はA 形(ドラム式)、B 形(アジテータ式)及びC 形(パルセータ式)の3つに分かれ、乾燥方法においては、A法(吊干し乾燥)・B法(ぬれ吊干し乾燥)・C法(平干し乾燥)・D法(ぬれ平干し乾燥)・E法(平プレス乾燥)・F法(タンブル乾燥)までのいずれかの乾燥を行います。
ドライクリーニング法(JIS L 1931-2及び3)
ドライクリーニングの際に、クリーニング液として使用されるパークロロエチレン又は石油系溶剤に対する寸法変化特性を評価するために行う試験です。
水洗いのできない素材に用いられる試験方法です。
ドライクリーニング法では、試験前後の測定区間の長さを測定し、寸法変化率を計算します。
まとめ
今回は意外と知られていない、繊維の品質表示の重要性や評価方法などについて調査しました。
品質表示には多くの情報が詰まっており、衣類を扱う上で大切な要素を含んでいます。
また、品質表示タグを付けることは「家庭用品品質表示法」という法律で定められた義務ということがわかりました。
消費者やクリーニング店との洗濯トラブルを避け、安心して取り扱ってもらうためにも品質表示の表記内容について理解をし、正しい情報を提供するようにしましょう。
ソース一覧
https://www.caa.go.jp/policies/policy/representation/household_goods/
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jieij/94/8A/94_8A_436/_pdf
https://www.caa.go.jp/policies/policy/representation/household_goods/guide/wash_01.html
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https://www.iri-tokyo.jp/site/archives/complaint-technique-s03.html
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