衣料品は私たちの動きなどによって身の回りの物や衣服同士で摩擦が起こります。摩擦されることで糸の繊維がほぐれたり切れてしまい、生地の破れや変色の原因となります。このような繊維のほぐれや切れを評価する試験を摩耗強さ試験と呼びます。
摩耗強さにはアイテムや生地の種類、摩耗される部位など様々な要因を想定されており、要因ごとに試験方法があります。ここでは使用頻度の高い試験方法をいくつか紹介します。
JIS L 1096 A-1法 (平面法)
目的・概要
主に織物、編物、不織布などで作られた衣料品のひじ、ひざ、尻などを想定した比較的平面的な状態での摩耗強さを評価します。
生地を緩やかな曲面上に固定し、所定の研磨紙で摩擦します。生地に穴が開いた時点で摩擦を止め、その時の摩擦回数で摩耗強さを評価します。
試験結果の数値が大きいほど多くの摩耗に耐えられる強い生地と言えます。
試験片
直径約120mmの円形の試験片×5枚
試験
- ゴム膜の上に試験片を広げ、下側からゴム膜を膨らまして緩やかな曲面にする。
- 上から所定の押圧荷重をかけながら、研磨紙で試験片を多方向に摩擦する。
- 摩擦部分に一定程度の穴が開いた時点までの摩擦回数を測定する。
- 5回の試験を繰り返す。
結果
5回の摩擦回数の平均値を求める。
試験結果例
生地 | 試験結果例 |
織物 | 964回 |
編物 |
※摩擦回数は押圧荷重や研磨紙の種類によって増減します。
試験をご依頼いただく場合は摩擦条件を確認させていただきます。
JIS L 1096 A-3法 (折目法)
目的・概要
主に織物、編物などで作られた衣料品の裾や袖口、衿先などの折目を想定した折目に近い状態での摩耗強さを評価します。
生地を二つ折りにし、折目部分に丈夫な金属棒を挟んで固定します。金属棒に押し当てた生地を所定の研磨紙で摩擦し、試験片が切断するまでの摩擦回数で摩耗強さを評価します。試験はタテ方向、ヨコ方向に分けて実施します。
試験結果の数値が大きいほど多くの摩耗に耐えられる強い生地と言えます。
試験片
- タテ方向 約75mm×25mmの試験片×5枚
- ヨコ方向 25mm×約75mmの試験片×5枚
試験
- 試験片を二つ折りにして治具の金属棒を二つ折りの生地の間に挟んでセットし、折目に近い状態で固定する。
- 所定の押圧荷重をかけながら、折目の先端部分を所定の研磨紙で多方向に摩擦する。
- 試験片が摩耗し、完全に切断する時点までの摩擦回数を測定する。
- タテ方向、ヨコ方向それぞれ5回の試験を繰り返す。
結果
タテ方向、ヨコ方向それぞれ5回の摩擦回数の平均値を求める。
試験結果例
生地 | 試験結果例 |
織物 | タテ 74回 ヨコ 67回 |
編物 |
※摩擦回数は押圧荷重や研磨紙の種類によって増減します。
試験をご依頼いただく場合は摩擦条件を確認させていただきます。
摩耗強さ(C法 テーバ形法)
目的・概要
厚地の生地や、革、特殊生地(合成皮革など)、ゴムなど幅広い素材の摩耗耐久性を評価することができます。衣料品と比べてより高負荷な資材で実施することが多い試験です。
テーバ形法は生地表面を摩耗輪と呼ばれる車輪状の研磨材で研磨します。所定の回数摩擦し、用途などに応じて質量の減量、厚さ減少率、引張強さ低下率、外観変化、または摩擦変色性のいずれかで評価します。
試験結果の数値が大きいほど多くの摩耗に耐えられる強い生地と言えます。
試験片
- 直径約130mmの円形の試験片×5枚
試験
- 試験片を回転台に広げて固定し、摩耗輪を所定の押圧荷重をかけて試験片の上に置く。
- 回転台を回転させ、試験片の回転に合わせて摩耗輪を回転させながら摩擦する。
- 所定の回数摩擦した後、試験片を取り出す。
- 5回の試験を繰り返す。
評価は以下のいずれかの方法で行う。
①質量の減量
以下の式によって5枚それぞれの質量の減量を求め、5回の平均値を求める。
(質量の減量(mg))= (摩擦前の質量(mg))ー(摩擦後の質量(mg))
②厚さ減少率
以下の式によって5枚それぞれの厚さ減少率を求め、5回の平均値を求める。
(厚さ減少率(%))= \(\displaystyle\frac{ (原布の厚さ(mm))-(摩擦後の厚さ(mm))}{ (原布の厚さ(mm))}\)×100
③引張強さ低下率
原布と摩擦後試験片を所定の大きさに裁断し、それぞれの引張強さを5回測定する。
以下の式によって引張強さ低下率の平均値を求める。
(引張強さ低下率(%))= \(\displaystyle\frac{ (原布の引張強さ(N))-(摩擦後の引張強さ(N))}{ (原布の引張強さ(N))}\)×100
④外観変化
主に織物に対して評価する。試験後片の外観変化を観察し、A級(異常なし)、B級(やや損傷している)、C級(たて(糸)又はよこ(糸)が切断している)のように判定する。
⑤摩擦変色性
所定の条件で3枚の試験片を摩擦後、摩擦部分と摩擦していない部分の色の開きを変退色グレースケールと比較して等級判定する。
結果
①、②、③の評価方法では5回の値の平均値を求める。
④及び⑤の評価方法では最も変化の大きい等級を記録する。
試験結果例①
生地 | 試験結果例 |
織物 | 137mg |
編物 | |
特殊生地 |
試験結果例②
生地 | 試験結果例 |
織物 | 3.6% |
編物 | |
特殊生地 |
試験結果例③
生地 | 試験結果例 |
織物 | 4.7% |
編物 | |
特殊生地 |
試験結果例④
生地 | 試験結果例 |
織物 | A級 |
編物 | |
特殊生地 |
試験結果例⑤
生地 | 試験結果例 |
織物 | 3~4級 |
編物 | |
特殊生地 |
※摩擦回数は押圧荷重や摩耗輪の種類によって増減します。試験をご依頼いただく場合は摩擦条件を確認させていただきます。
※試験をご依頼いただく場合は評価方法を確認させていただきます。
JIS L 1096 E法(マーチンデール法)
目的・概要
マーチンデール法は主に毛織物の摩擦に対する摩耗耐久性を評価する試験です。毛織物以外に椅子の座面や濃色のパンツ・スカート類でも試験されることがあります。
生地を比較的緩やかに摩擦し、試験片が一定の破損、外観変化または変退色するまでの摩擦回数を測定します。
試験結果の数値が大きいほど多くの摩耗に耐えられる強い生地と言えます。
試験片
- 直径約38mmの円形の試験片×4枚
試験
試験機の下の台に織フェルト、標準摩擦布(組成は毛100%)の2枚を重ねて広げる。
所定の押圧荷重をかけ、試験片を標準摩擦布に上から押し当てながら多方向に摩擦する。
エンドポイント(※)になった時点で摩擦を止め、摩擦回数を記録する。
※エンドポイントの例
エンドポイントの例 | 生地の状態 |
糸切れ | 織物の場合は試験片の2本以上の糸が切れたとき、編物の場合は試験片が摩耗して孔が開いたとき。 |
変退色 | 試験片の変退色が変退色用グレースケールの3号と同等になったとき。 |
外観変化 | 試験片の顕著な外観変化(起毛の喪失、ブークレ糸のループの喪失、ファンシ糸の効果の喪失など)が起こったとき。 |
4枚の試験片について摩擦を行う。
結果
4回の摩擦回数の平均値を求め、100回単位で表す。
試験結果例
生地 | 試験結果例 | 一般的な目安 |
毛織物 | 13400回 (エンドポイント:糸切れ) | 20000回以上 |
毛編物 |
JIS L 1096 F法 (ユニホーム形法)
目的・概要
主に靴下のつま先やかかと部分の穴あきを想定した摩擦耐久性を評価することが多い試験です。靴下のほか、編物のひじ、ひざ、内股などの摩耗を評価されることもあります。
試験は編地をスチールブレードと呼ばれる金属刃で摩擦し、試験片に穴が開くまでの摩擦回数を測定します。
試験結果の数値が大きいほど多くの摩耗に耐えられる強い生地と言えます。
試験片
- 直径約70mmの円形の試験片を5枚採取する。
試験
試験片を直径25mmの摩擦台に取り付ける。
所定の押圧荷重をかけ、試験片に摩擦子(※)を押し当てながら多方向に摩擦する。
※試験名と摩擦子の種類は以下のとおり
試験名 | 摩擦子 |
F-1法 | スチールブレード |
F-2法 | 研磨紙 |
摩擦面の生地糸が全て切断し、機械が停止したときの摩擦回数を記録する。
5枚の試験片について処理を行う。
結果
5回の摩擦回数の平均値を求める。
試験結果例
生地 | 試験結果例 | 一般的な目安 |
靴下(カジュアル用) | 876回 | 500回以上 |
靴下(ビジネス用) | 1000回以上 |