繊維製品には美しさや快適性だけではなく、さまざまな機能性も求められます。
その中で防汚性も重要な機能の一つです。普段あまり気にする機会は少ないかもしれませんが、実は意外と生活に密着した場所で活躍している機能なのです。
そこでこの記事では、繊維の防汚性の定義や防汚性を付与する加工方法、評価方法などを詳しく解説しています。
防汚性について知らなかった人でも、すぐにどんな機能なのか説明できるようになりますよ。
防汚性とは?
そもそも「防汚性」というワードを一度も聞いたことがないという人も多いかと思います。防汚性の定義や防汚性が大切な理由など、基本的な部分をまとめてみました。
防汚性の定義
「防汚性」とは「ぼうおせい」と読み、繊維製品や衣服に施される加工技術の一つです。汚れが付着しにくく、落としやすいようにすることを目的としています。
英語では「Antifouling」と表記されることが多いようです。家の外装などに使う塗料でも同じような効果が使われていますが、繊維の防汚性は衣服や寝具、自動車のシート、家具などに利用されています。
防汚性が大切な理由
繊維を使った衣服や家具などは、毎日の使用やさまざまな環境下での利用により、汚れと隣り合わせで使われています。
例えば、飲み物をこぼしてしまったり、子供が汚れた手で触ったりすると繊維製品は簡単に汚れてしまいます。
そんな中で防汚性の製品を利用するメリットが大きく分けて2つあります。
- 衛生的な生活を実現
繊維製品に付着した汚れを放置しておくと、雑菌が増殖することにつながります。雑菌は不快なにおいを発生させ、快適な日常を妨害します。また、人間の健康に悪影響を及ぼすことがあります。特に小さな子どもや高齢者など免疫力の低い人を感染から守ることも大切です。これらのリスクを避けるために防汚性が重宝されています。 - 経済的な生活を支援
汚れてしまった繊維製品を綺麗にするには、定期的なクリーニングや交換が必要になります。一方で、防汚性が高い繊維製品であれば、長期間にわたって清潔感や美しさを維持できます。そのため、クリーニングや交換の頻度を減らすことができ、長期的なコスト削減にもつながります。
防汚性が付与された繊維製品はユニフォームやスポーツウエア、インナー、紳士・婦人服、衛生服などさまざまな場所で活用されています。
繊維が汚れる原因
繊維製品が汚れる原因は、大きく分けて水溶性の汚れ、油溶性の汚れ、固体の汚れの3つに分類されます。それぞれについて詳しく解説しましょう。
水溶性の汚れ
コーヒーやジュース、スープなどを服にこぼしたときに、シミや汚れがついてしまった経験はないでしょうか。水溶性の汚れとは、飲み物に代表されるように水に溶ける性質を持つ汚れのことを指します。
また、汗なども水溶性に分類される汚れです。水溶性の汚れは洗濯機と洗剤を使った通常の洗濯方法で、比較的簡単に落とすことができます。
しかし汚れたまま長く放置してしまうと、汚れの成分が繊維の奥深くに付着して落ちにくくなってしまうことも…。汚れてしまった場合は早めの対応が求められます。
油溶性(=疎水性)の汚れ
油溶性の汚れの原因にはミートソース、カレー、オイル、サインペンなどがあります。油と水は混ざりにくい性質を持つため、水洗いだけでは落としきれないことが多いです。
また、ポリエステルやナイロンなどの合成繊維は疎水性の表面をもつため、疎水性の汚れと相性がよく、落ちにくくなります。
応急処置としては、食器用洗剤やクレンジングオイルを活用して落とすことがあります。いずれにしても手間や特殊なアイテムが必要な汚れといえるでしょう。
固体の汚れ
固体の汚れとは、土汚れやスス汚れなどの粒子状の汚れのことを指します。固体の汚れが繊維に付着し、液体とともに繊維の凹凸の隙間に入り込んでしまうと、かなり落としにくくなります。
洗濯だけでは落ちず、漂白剤も効果がないなど、厄介な汚れといえます。
防汚性の種類
防汚性にはアプローチによって次のような3つの種類に分けられます。それぞれの加工方法について具体的に解説しましょう。
ソイルガード(SG)加工
ソイルガード(SG)加工は、汚れを繊維に付きにくくする加工方法です。一般的にはフルオロカーボン系を中心とした樹脂で繊維の表面を加工し、撥水性を発現させます。
繊維の表面が濡れにくくなることで、汚れの成分が繊維と触れないため、汚れにくくなる仕組みです。
また、同じように樹脂で繊維の表面の凹凸を少なくして、粉末の汚れを付着しにくくするアプローチもあります。
ソイルリリース(SR)加工
ソイルリリース(SR)加工は汚れても、洗濯で落ちやすくする加工方法です。洗濯時には繊維の表面に水が接近することで、汚れを落とすことができます。
そのため、SR加工では繊維表面を親水性にする加工が採用され、主にアクリル酸系の樹脂が使われます。
また、洗濯機の中では疎水性の汚れ物質が水と離れようと移動しますが、同じく疎水性の繊維が近くにあると汚れと繊維が接近します。
このように洗濯中にもかかわらず汚れることを再汚染と呼びます。SR加工で繊維の表面を親水性にすると、汚れが繊維から離れやすくなり、再汚染を防ぐことができます。
ちなみに、防汚性が考案された初期の頃は、SR加工が主流として普及していました。
ソイルガードリリース(SGR)加工
ソイルガードリリース(SGR)加工とは、SGR加工とSR加工の両方のメリットが得られる加工方法のことです。
空気中では撥水性が発現して汚れが繊維表面に付着するのを防ぎ、水中では親水性の面が表面に位置して汚れを落としやすくします。
SGR加工では繊維の表面を、撥水性の部分と親水性の部分が交互に存在する物質で覆っています。
ソイルハイド(SH)機能
上記とは少し異なるアプローチですが、繊維製品が汚れても汚れを目立たなくする機能を持たせることもあります。
ソイルハイド(SH)加工には、例えば繊維の断面がX字になったような異形断面繊維が利用されます。繊維の凹部分に細かい汚れを取り込むことで、外見上は汚れていないように見せる光学的な技術です。
防汚性の評価方法
防汚性を評価する方法には、JIS L 1919「繊維製品の防汚性試験方法」があります。
評価試験に利用する試験機や対象とする汚れに応じて3種類に分かれており、求める防汚性に対して適切な試験を選ぶことが必要です。各試験方法について、詳しく解説していきます。
A法:ICI形ピリング試験機を用いる方法
A法は、粉体汚れに対する防汚性の試験に適用し、JIS L 1076「織物及び編物のピリング試験方法」に使われるICI形試験機を利用する評価方法です。
A法はさらに、泥汚れを想定したA-1法と、空気中に浮遊する粉じんを想定したA-2法に分かれています。
A-1法では密閉形円筒容器を使い、A-2法では密閉形樹脂製袋を使います。それぞれの具体的な試験方法を解説しましょう。
A-1法
汚れにくさを評価する試験では、規定の配合で作製した人工汚染物質1gと試験片を回転箱に入れ、60回転/分の速度で20分間操作して、汚れを付着させます。
その後、新品の試験片と汚れた試験片を比較し、判定します。
付いた汚れの落ちやすさを評価する試験では、上記の方法で汚れを付着させた試験片をJIS L 0217に記載されている方法で洗濯し、室温で乾燥させます。
なお、洗濯時にはJIS K 3371 に記載の弱アルカリまたは中性洗剤を使います。ドライクリーニングをする場合には、JIS L 1092に記載の方法で行います。
洗濯やクリーニングをした後に、新品の試験片と洗濯後の試験片を比較して判定を行います。
A-2法
規定の配合で作られた粉体汚染物質1gと試験片を容量2,000mLの樹脂製袋に入れ、エアポンプで完全に膨らむまで空気を封入します。
樹脂製袋を回転箱に入れ、60回転/分の速度で60分間操作します。その後はA-1法と同様に判定します。
ちなみに試験機の名前にもなっている「ピリング」とは毛玉のことを指します。ピリングはこちらでも詳しく解説しています。興味を持った人はぜひ参考にしてみてください。
B法:スプレー法
B法は、親水性の汚れに対する防汚性を評価する試験方法です。
事前に規定の割合で作製した人工汚染物質100mLを、JIS L 1092に記載のはっ水度試験装置を利用して散布します。散布後1分間放置した後、A-1法と同様の洗濯と判定を行います。
C法:滴下拭き取り法
C法は、親油性汚れに対する防汚性を評価する試験方法です。
事前に規定の割合で作製した人工汚染物質を100mL用意し、メスピペット等を使って0.1mLを試験片に滴下します。滴下後1分放置した後、A-1法と同様の洗濯と判定を行います。
防汚性の認証マーク
防汚性が一定の水準を満たした繊維製品を見分ける方法として、SEKマークの存在があります。まだ目にしたことがない人も多いかと思います。SEKマークの概要や認証基準について解説しましょう。
SEKマークとは?
SEKマークとは(一社)繊維評価技術協議会が性能を保証する繊維製品に対してつけられるマークです。
ちなみにSEKとは「清潔(Seiketsu)」「衛生(Eisei)」「快適(Kaiteki)」の頭文字のアルファベットから名付けられています。
抗菌防臭加工、抗カビ加工、消臭加工、抗ウィルス加工、紫外線遮蔽加工などさまざまな機能性繊維製品の加工に対して認証が行われています。
防汚加工マークは2012年10月に新設され、認証が開始されました。
防汚性で認証される水準
SEKマークの認証ではJIS L 1919による試験方法に加えて、花粉汚れや食品汚れに対する独自の試験方法(繊技協法)が設定されています。
各試験に対してSEK認証を取得できる評価基準は以下のとおりです。
試験方法 | 評価方法と評価基準 | 試験品 | |
JIS L 1919 | A-1法(泥汚れ等の粗い粉体汚れ) | JIS汚染グレースケール使用<絶対評価>3.5級以上(SG/SR)<相対評価>3.0級以上、かつ未加工布との差が1.0以上(SG/SR) | 白又は淡色 |
A-2法(埃等の細かい粉体汚れ) | |||
B法(親水性汚れ) | |||
C法 汚染物質-2(親油性汚れ) | |||
指定オプション法(繊技協法) | 花粉汚れ試験(花粉が容易に通過するような目の粗い製品は対象外) | 標準写真による級判定(1~5級)SGが3.0級以上かつSRが4.0級以上 | 黒又は濃色白又は淡色 |
食品汚れ試験<必須>カレー、ミートソース、ラー油<選択>ソース、醤油、ワイン、コーヒー | JIS汚染グレースケール使用<絶対評価>4.0級以上(SG/SR) | 白又は淡色 |
SEKマークの認証を取得すると、製品にSEKマーク(防汚加工)を表示することができるようになります。
さらに防汚性の効果を謳う文言として、SG加工の場合には「○○を付きにくくします。 」、SR加工の場合には「○○を落ちやすくします。」が付記されます。
まとめ
この記事では、防汚性の加工方法や評価方法について解説しました。
防汚性は衣服や家具、車のシートなどのさまざまな繊維製品に施される機能加工です。繊維に対してソイルガード(SG)加工、ソイルリリース(SR)加工、ソイルガードリリース(SGR)加工を行うことで防汚性を発現させています。
防汚性の評価方法にはJIS規格に基づく試験方法があり、汚れの起源に応じて適切な方法を選ぶことが必要です。
また、防汚性が一定の水準を満たした繊維製品は、SEKマークの認定を取得することができます。SEKマークがついていれば高性能な製品を簡単に見分けられることでしょう。
衛生的な生活をするためにも、防汚性加工が施された製品を手に取ってみてはいかがでしょうか。
ソース一覧 ※適宜追記
https://kikakurui.com/l/L1919-2012-01.html
https://www.jstage.jst.go.jp/article/transjtmsj/59/5/59_271/_pdf/-char/ja
https://www.jstage.jst.go.jp/article/transjtmsj1965a/25/1/25_1_P56/_pdf/-char/ja
http://repo.kyoto-wu.ac.jp/dspace/bitstream/11173/1463/1/0120_003_004.pdf
https://www.daiwabo.co.jp/product/names/eco-release-w_miracle-release-w/
https://www.sen-i-news.co.jp/seninews/view/?article=305858
https://www.sen-i-news.co.jp/seninews/view/?article=267406
http://www.sengikyo.or.jp/sek/?eid=00004
https://kokorocare.jp/assets/files/deofactor_antivirus-JEC301_SEK_20210601.pdf
https://www.jcfa.gr.jp/about_kasen/katsuyaku/shuyou_brand/17.html